だいたい読書日記

本の問屋(取次)に勤めています。仕事柄、本を読むのが好きなので、ここで独り言を書いております。趣味でインプロという台本のない即興劇をやっており、ステージ経験もそれなりにありますが、コロナの影響で今はお休み中。その他、立ち食いそば、B級グルメ、落語、野球など、好きな事を好きなように書いています。

日記②。私の「名刺がわりの小説10冊」。

ちなみに、自分が選んだのはこの10冊。

(自分の『名刺がわりの小説10冊』)

田中芳樹銀河英雄伝説」創元SF文庫

言わずとしれた日本SFの金字塔。影響を受けた作家は数知れません。学生時代ほとんど小説を読まなかった自分が、読書の沼にはまるきっかけになった本です。そして、この本のおかげ(せい)で、出版関係の仕事に就いたといっても過言ではないではないです。今の業界と己の斜陽っぷりを見るにつけ、どうしてくれるんだ田中芳樹と言いたくなります(笑)


沢木耕太郎「一瞬の夏」新潮文庫

高校時代ゴリゴリの体育会系だった自分。スポーツノンフィクションはそんな自分と本を繋げてくれた大きなきっかけになりました。そしてカシアス内藤というボクサーのカムバックを描いたこの作品は、その中でも特に印象に残っている1冊。若い頃は沢木さんのような人との関わり方をしたいと、あこがれました。


・デュラス「愛人 ラマン」河出文庫

下北沢の「スズナリ」で見かけた、いとうせいこうさんと奥泉光さんの「文芸漫談」のチラシ。そこに今回のお題として書かれていたのが、デュラスのこの作品。始めての読書会やビブリオバトルでも助けてもらった、不思議な縁のある小説です。小説そのものも映像が流れているようでとても美しい。自分に食わず嫌いは良くないよ、という事を教えてくれた1冊でもあります。


飯嶋和一「汝ふたたび故郷へ帰れず」小学館文庫
寡作かつ稀代の歴史小説家、飯嶋和一さんのデビュー作にして唯一の現代小説集。飯嶋さんの作品はどの作品も面白いのですが、なかなか刊行されない事がたまに疵です。表題作は挫折したボクサーが、故郷で自分を見つめ直し再生する物語。とにかく再生のきっかけになるシーンが素晴らしく、最初に読んだ時には鳥肌が立ちました。そこだけでもいいので、みんなに読んでもらいたい1冊です。


伊坂幸太郎「死神の精度」新潮文庫

原因不明のアレルギー疾患で死にかけて入院し、退院したその日に買った本。好きなものはミュージック。いる時にはなぜかいつも雨が降っている。クールだけど少しずれていてユーモラス。そんな死神の千葉の造形がとにかくツボです。死を扱っているだけに、底に流れるテーマは重いのですが、エンターテインメントとして楽しく読む事ができる連作小説集です。死にかけた後だったので、この本をきっかけに死についていろいろ考えましたし、自分の好きな本が読めるありがたみを凄く感じた1冊です。


森見登美彦太陽の塔新潮文庫

若いころ少しだけ住んでいたのが「太陽の塔」のある吹田市。この小説に出てくる主人公のように女性にモテない上にフラれ、ひたすら勉強とバイトに明け暮れた大学時代を思い出します。そう、大学でヒエラルキーが高いのは彼女がいる男で、勉強しているのは、それができない負け犬だからなのです(笑)本上まなみさんが好きなのも、大阪で自転車を盗まれたのも、この本の主人公と一緒。見た目も学校の偏差値も違いますが、「この本、オレの事見て書かれたんじゃないの」って、一時期だけですがマジで思っていました。


町田康「パンク侍斬られて候」角川文庫

ありえない位バカバカしくてくだらないのに、小説としては実に計算されつくしていて、きちんと読ませてくれる。時代劇のお約束と小ネタがあちこちに散りばめられ、歴史好きな自分にはそういう所もツボです。この人のように文章が書けたらどんなにいいだろうと思います。舞台化も映画化もされていて、そのたびに観に行くのですが、終わった後には、小説の偉大さを改めて感じる事になります。


・石牟田道子「苦海浄土講談社文庫

目の前で起こっている事は、これ以上ない位理不尽で目を背けたくなるような事です。それなのに文章の美しさと力強さに、目が離せなくなる。人の吐いた血ヘドを見て美しいと感じてしまう。そんな凄まじい小説です。最初はノンフィクションかと思うのですが、ちょっと考えると、水俣病の患者がこんなに雄弁に語れる訳がない。それなのに、読んでいるうちに、その人が語っているようにしか思えなくなってしまう。石牟田さんの「共感」する力にはただただ驚かされます。


・ガルシア=マルケス百年の孤独」新潮社

コロンビアに限りなく近い架空の場所に生きた一族のひゃくねんに渡る興亡を描いた作品。改行がなく、ページをめくれどもめくれども、文字文字でページ数以上のボリュームがありますので、読むのには相当骨が折れます。この小説の一番やたっかいな所は、一行一行の内容が濃厚で、全くといっていい位、読み飛ばすことの出来ないこと。本当にやっかいな本です(笑)ただ、ここまでさまざまな人の営みが描かれている本もなかなかお目にかかれない。この本を読み終える事ができたお陰て、大抵の本は時間さえ掛ければ読むことができる、という自信になりました。


いとうせいこう「想像ラジオ」河出文庫

最初の緊急事態宣言の時、改めて読み返しました。孤独さに打ちのめされていた時に、時には死者とともに生きてもいいんだと勇気をもらい、電車の中で泣きながら読んだ記憶があります。個人的には、この作品に出てくる曲のセットリストを是非とも聴いていただきたいです。この作品とDJとしてのいとうせいこうさんの凄さを、改めて感じる事ができるはずです。