だいたい読書日記

元本の問屋(取次)に勤務も1/末に退社。ただ今、絶賛求職活動中。好きなものは読書、インプロ(即興劇、舞台経験あり)。その他、立ち食いそば、B級グルメ、落語、ベイスターズ、FC東京、謎解きなどに興味があります。基本自分の備忘録なので、好きな事を好きなように書いています。

日記。談志師匠。紺屋高尾。

木曜日に大方急ぎの用事をこなせたので、外出は日用品の買い物だけに止め、ほぼ終日、家にいる事にする。

以前読んだ、「立川談志遺言全集」の1巻を読み返していたら、紺屋高尾の1節が妙に気になってしまう。高座には行けませんが、You Tubeという便利なものがあるので、映像で見てみる事に。


(すごくざっくりとした「紺屋高尾」のあらすじ)
染物屋の職人、久蔵。普段は真面目な男が、仕事の時間になっても部屋から出てこない。心配になった親方が話を聞くと、恋患いで何も手につかなくなってしまったらしい。ただ、その相手が吉原の高尾太夫太夫といえば、気に入らなければ大名からの誘いも断れる、吉原の花魁の中でも頂点に立つ存在。職人見習いの久蔵ではとても釣り合う相手ではない。それでも何とか元気になって欲しい親方は、その場しのぎで「3年死ぬ気で働けば会わせてやる」と約束してしまう。

そして、その3年後がやってきて……。



結果、運も味方して久蔵は高尾太夫に会うことができます。その、翌朝、大夫に次はいつ来るのか、と訪ねられて久蔵が答えるくだりが、今回、自分の気になった部分。


「花魁、そういうわけですから勘弁してください。会えないと思っていた花魁に会えました。会ってくれましたね。有り難うございます。 もう私はね、これで大丈夫です。死ぬなんてことはとても花魁のためにも、私のためにも、出来はしません。一生懸命生きていきます。花魁も、元気にしててください。三年経ったらまた来ます。とはいえ、全盛の花魁だ。三年のうちには、どんな人に身請けられてそこの奥方になるか、お囲いになるか知れませんが、そうすりゃこの廓にいない。いくら会おうたって会えねえ。だけどね、花魁、済いません、お喋りで……」


考えてみたら、この噺、高尾太夫と久蔵が実際に会って話をする場面というのは、全体の中でもごくごく限られた時間です。そんな限られた時間の中で、男を見るプロといってもいい高尾太夫に、久蔵の事を「この人ならば、自分の未来をかけてもいい」と思わせないといけない。3年かけて会うためのお金を貯めたという実績かあっても、これはなかなか噺家さんにとっては、難しい状況だと思います。噺家としてのスキルだけでなく、女性を口説く能力も必要ですからね(笑)


談志師匠は、あくまでもそこを恋愛感情一点で突破しようとしている。それで、お客さんを納得させてしまえるスキルも凄いですし、見た目は強面ですが、繊細でものすごくロマンチストな一面があるように思えて仕方がないです。


それにしても、映像で談志師匠の落語を見ていると、役者としての登場人物の目線と、演出家としての師匠自身の目線とが、目まぐるしく変化していくのが、とても面白い。役者と演出家と両方のチャンネルがあって、スイッチで自在に動かせるのには、ここまで芸人として自分を客観視できるのかという驚きと、そして感動さえあります。

おそらく、役になる所までは稽古である程度のレベルにまではたどり着けるでしょう。なかには、それを極めて名人と呼ばれるようになった方もいますし。稽古しながら、演出家目線で噺をアレンジしていく事も充分に可能です。ただ、演じながら俯瞰する、というのが本当に難しい。談志師匠でさえ、自身で言っているように、時おり演出家が顔を出しすぎてしまう。噺の一節から、落語の奥深さに、少しだけ触れる事ができました。